Meister interview vol.57 ~ 靴磨き職人 燈-LUMIN- 安森 雄大さん ~
革靴、皮革製品、靴磨きやファッションなどに精通しているプロフェッショナルな方々を、
M.MOWBRAY認定のシューケアマイスターがインタビュー。
お仕事の内容やこだわり、人となりについてご紹介する企画です。

今回インタビューにご協力いただいたのは、
鳥取・島根を中心とした山陰地方で活動する靴磨き職人「燈-LUMIN-(ルミン)」の安森 雄大さん。
本業では医療・介護分野でリハビリテーションの仕事に携わりながら、
2026年3月より「燈-LUMIN-」として靴磨きの活動をスタートしました。
掲げている言葉は、「足元にあかりを。」
リハビリテーションと靴磨き。
一見異なる二つの仕事ですが、
その根底には「誰かが次の一歩を踏み出すためのお手伝いをしたい」という共通した想いがあります。
今回は、靴磨きを始めたきっかけや活動に込めた想い、靴好きの原点となった一足、
シューケアへのこだわりなどについてお話を伺いました。
「次の一歩」を支える、二つの仕事

本業ではリハビリテーションの仕事に携わっています。
主に施設へ通ってこられるご利用者様が、住み慣れたご自宅での生活をできるだけ長く続けていけるよう、
身体機能や日常生活動作の維持・向上を目的としたリハビリを行っています。
単に身体を動かすだけではなく、
その方が「どのような生活を送りたいのか」を考えながら関わることを大切にしています。
その傍ら、靴磨き職人「燈-LUMIN-」としても活動しています。
掲げている言葉は、
「足元にあかりを。」
靴をただ綺麗にするだけではなく、磨いた靴を履いた方が少し前向きな気持ちになったり、
大切な一日に自信を持って踏み出せるようになったり。
足元の輝きを通して、その方の背中を少しでも押せる存在になりたいと思っています。
現在は靴磨きのご依頼をお受けするほか、イベント出店や出張靴磨きなどを通して、
山陰で「靴を磨くこと」「一足の靴を大切に長く履くこと」の魅力を伝える活動をしています。
■現在のお仕事をするようになった経緯を教えてください。
本業のリハビリテーションの仕事を目指すきっかけの一つになったのは、祖父の存在です。
祖父が足を悪くしていたこともあり、
「自分にも何か支えることができないだろうか」
と思ったことからリハビリテーションという仕事を知り、現在の職業を選びました。
燈-LUMIN-の原点は、純粋に「靴が好き」という気持ちです。
好きな靴を自分で手入れしているうちに、次第に靴そのものだけではなく、
「磨くこと」にも魅力を感じるようになりました。
大きな転機となったのは、プロの靴磨き職人の方々によるワークショップに参加したことです。
目の前で一足の靴が見違えるように輝いていく。
その姿を見て、靴磨きは単に汚れを落とすための作業ではないと感じました。
手をかけることで物への愛着が深まり、「もっと大切に履こう」と思える。
そして、綺麗になった靴を履けば、自分自身の気持ちも少し変わる。
その力に惹かれ、
「自分が好きな靴磨きを通して、地元・山陰でも誰かの足元を輝かせることができないだろうか」
と考えるようになり、2026年3月に「燈-LUMIN-」として活動を始めました。
足元から、誰かの背中を押す

■二つのお仕事をする中で、一番のやりがいは何ですか?
本業と燈-LUMIN-の活動は仕事内容が全く違いますが、自分の中では共通している部分があります。
それは、目の前の方に直接関わり、その方に少しでも良い変化を届けられることです。
本業では、ご利用者様が「できるようになった」「楽になった」と変化を実感してくださった時。
靴磨きでは、お渡しした瞬間に表情が変わったり、
「またこの靴を履きたくなった」と言っていただけたりした時。
そうした瞬間に、一番のやりがいを感じます。
リハビリではその方の生活を、靴磨きではその方の足元を支える。
形は違いますが、どちらも誰かが次の一歩を踏み出すためのお手伝いができる仕事だと思っています。
■靴磨きで難しさを感じることはありますか?
難しさを感じるのは、一足一足に同じ「正解」がないことです。
革の種類や状態だけではなく、お客様が普段どのように履かれているのか、その靴にどんな思いがあるのか、
これからどのように履いていきたいのかによっても、必要なケアは変わると思っています。
始めたばかりの頃は、技術的に「綺麗にすること」ばかりを考えてしまうこともありました。
しかし経験を重ねる中で、大切なのは自分が綺麗だと思う状態にすることではなく、
持ち主の方が求めている仕上がりに近づけることだと感じるようになりました。
だからこそ、磨く前の会話も大切にしています。
今でも迷うことはありますが、一足一足と向き合い、分からないことは調べ、学び続けるようにしています。
「足元にあかりを。」に込めた想い
■これまでで特に思い入れのあるものを教えてください。
一番思い入れがあるのは、やはり「燈-LUMIN-」という活動そのものです。
屋号、ロゴ、名刺、ポスター、看板、写真、発信する言葉まで、一つずつ考えながら形にしてきました。
特に「燈」という名前と、
「足元にあかりを。」
という言葉には、自分が靴磨きを通して実現したいことを込めています。
まだ活動を始めて間もないからこそ、完成したブランドだとは思っていません。
靴磨きの技術と同じように、これから出会う方々や経験を通して「燈-LUMIN-らしさ」も育てていきたいと思っています。
手入れされた靴を履く気持ち良さを、自分自身が楽しむ

■日々の暮らしの中で心がけていることはありますか?
人はいつ、どこで、誰に見られているか分からないと思っているので、
普段から身だしなみや服装には気をつけるようにしています。
特に靴が好きになってからは、自然と足元を意識するようになりました。
街を歩いていても、すれ違う方が「今日はどんな靴を履いているんだろう」と、つい足元を見てしまいます(笑)。
仕事や生活、ファッションによって選ばれている靴も違うので、足元を見ること自体が自分にとって一つの楽しみです。
そして自分自身も、「靴磨き職人だから綺麗な靴を履く」のではなく、
手入れされた靴を履く気持ち良さを自分が一番楽しんでいたいと思っています。
■物を大切にするために習慣にしていることはありますか?
靴については、日々のブラッシングと定期的なケアを心がけています。
毎回特別なことをするのではなく、
履いた後にブラシをかける。少し休ませる。状態を見て必要な時にケアする。
そうした小さな積み重ねが、物を長く大切に使うことにつながると思っています。
そして、これは娘たちにも伝えていきたいことの一つです。
娘たちにもブラシを渡して、自分の靴をブラッシングしてもらうことがあります。
まだ遊びの延長だと思いますが、「使った物を自分の手で手入れする」という経験を通して、
物を大切にする気持ちを少しずつ感じてもらえたら嬉しいです。
■休日はどのように過ごされていますか?
休日は家族で出かけたり、娘たちと遊んだりして過ごすことが多いです。
本業と燈-LUMIN-の活動を並行しているからこそ、家族と過ごす時間は大切にしたいと思っています。
一方、一人で気持ちを整理したい時や、いろいろな考えをまとめたい時は、やっぱり靴磨きです。
靴と向き合ってケアをしていると、余計なことを考えず、無心になれる瞬間があります。
自分にとって靴磨きは「仕事」であると同時に、趣味であり、一番身近なリフレッシュ方法でもあります。
靴好きの原点は「RED WING」

■靴は何足くらいお持ちですか?
一時期は50足近く所有していましたが、現在は35足ほどです。
最初は純粋に好きで集めていましたが、今ではさまざまなブランドや製法、革の種類、経年変化などを、
自分で履いて、手入れをしながら知ることも自己研鑽の一つになっています。
同じ革靴でも一足一足に個性があり、革によってケアした時の反応も違います。
自分自身で履き、育てた経験も、お客様の大切な靴をお預かりする時に活かしていきたいと思っています。
■好きな靴のブランドを教えてください。
私の靴好きのルーツは「RED WING」です。
RED WINGとの出会いから革靴の魅力に惹かれ、気がつけばすっかり革靴の“沼”にはまっていました。
その後、娘が生まれた頃から日本製の靴にも興味を持つようになりました。
chausser、ヒラキヒミ、ROLLING DUB TRIO、ORIENTAL、RENDO、Brother Bridge、formeなど、
さまざまな日本のブランドに触れてきました。
特に惹かれたのは、日本製靴ならではのフォルムの美しさと、細部まで丁寧に作り込まれたものづくりです。
ブランドごとに考え方や靴の表情がまったく違うことも面白く、今では履くだけではなく、
「なぜこの形なのか」「どのように作られているのか」と考えることも、靴を楽しむ一つになっています。
■好きなレザーグッズのブランドはありますか?
財布や商談の際に使うハンドルバッグはforme、小銭入れはHender Scheme、
通勤などで使うリュックはROLLING DUB TRIOのものを愛用しています。
また、ROLLING DUB TRIOのデザイナー・徳永勝也さんによる
Katsuya Tokunaga Atelier Tokyoのカードケースも愛用しています。
ブライドルレザーとコードバンのものをそれぞれ持っていて、ブライドルレザーは普段使いのカードケース、
コードバンは革の存在感を楽しみながら名刺入れとして使い分けています。
どれも使い込む中で革が変化し、自分の持ち物として馴染んでいくところに魅力を感じています。
今の自分につながる、二足の「原点」

■一番のお気に入りの靴を教えてください。
自分のルーツとなる一足は、RED WINGの「1907」です。
妻と結婚を前提に付き合っていた頃、私の父へ妻を紹介するために会いに行きました。
数年ぶりの再会で父も嬉しかったのか、父も好きで履いていたREDWINGを記念に買ってくれた思い入れのある1足です。
革靴を好きになるきっかけであると同時に、父とのこと、妻とのこと、
自分がこれから家庭を築いていこうとしていた頃のことが詰まった、特別な一足です。
今でも履くたびに当時のことを思い出します。

もう一足挙げるなら、日本製の靴ではchausserの「C-7047sai」です。
娘たちの大切な式典や行事には、必ずこの靴を履いています。
日本製靴の魅力にのめり込むきっかけであり、自分が本格的に「磨き」を意識するようになった一足でもあります。
RED WING 1907が「革靴を好きになった原点」なら、
chausser C-7047saiは「靴を磨き、手入れをしながら美しく育てる楽しさを知った原点」。
自分にとっては、どちらも今の燈-LUMIN-につながっている大切な靴です。
一足一足に必要なケアを考える

■ケアのこだわりや、好きなアイテムを教えてください。
私が大切にしているのは、まずその靴の状態をよく見ることです。
革の種類や状態、これまで履かれてきた環境によって、必要なケアは一足一足違います。
「綺麗にする=たくさんクリームを使う」ではなく、
その靴に今何が必要なのかを考え、できるだけ革本来の表情や良さを活かすケアを心がけています。
アイテムでは、普段のケアから靴磨きの大会まで
「M.MOWBRAY ザ・ディープシュークリーム」や「M.MOWBRAY GLASS DRY WAX」をよく使用しています。
ただ製品を使うのではなく、「この革を最終的にどんな表情に仕上げたいのか」をイメージしながら、
そこから逆算してケアすることを意識しています。
■安森さんにとって「シューケア」とは?
私にとってシューケアは、単に靴を綺麗にするためだけのものではありません。
手をかけることでその靴への愛着が深まり、「これからも大切に履いていきたい」と思えるようになる。
傷や履きジワ、色の変化も、その人と靴が一緒に過ごしてきた時間の一部だと思っています。
すべてを新品のような状態に戻すのではなく、その靴らしさや持ち主の方が大切にしている部分を残しながら整えていく。
そして次にその靴を履く時、ほんの少しでも気持ちが上向く。
それが、自分の考えるシューケアの魅力です。
■ケアで困った経験はありますか?
靴磨きを始めた頃は、「何を、どのくらい使えばいいのか」が分からず、
必要以上にクリームを塗ってしまったり、思うような仕上がりにならなかったりすることもありました。
経験を重ねるほど、製品についての知識だけではなく、目の前の革の状態を見極めることの大切さを感じています。
今でも初めて触れる革や仕上げに出会います。
そのたびに調べ、試し、時には先輩の靴磨き職人の方々から学んでいます。
また、鳥取にも靴や靴磨きに強い熱量を持ったセレクトショップがあり、
全国各地の靴磨き職人の方を招いたワークショップなども開催されています。
地方にいながら、そうした方々から直接学べる環境やご縁には本当に感謝しています。
自分自身も学び続け、その経験を山陰のお客様へ還元していきたいと思っています。
家を建てる時、打ち合わせの大半は「玄関」

■靴の保管についてこだわりはありますか?
ここはかなりこだわっています(笑)。
以前アパートに住んでいた頃、靴が増えすぎて玄関から溢れるほどになってしまいました。
そこで家を建てる際には、オープンタイプのシューズクロークを設け、玄関そのものを靴中心に考えました。
注文住宅だったのですが、打ち合わせの大半が玄関についてだったので、
「内装はおまけだったよ」とよく妻に言われています(笑)。
玄関のモチーフにしたのは、RED WING大阪店です。
オープンにしているのは、靴を見渡しやすく、履きたい一足をすぐに選べるようにするためでもあり、
靴一足一足がインテリアになり、玄関の彩りを豊かにしてくれるためです。
靴はしまい込むと履く機会が減ってしまいます。
見える場所に置くことで状態も確認しやすく、「今日はどの靴を履こう」と考える時間そのものも楽しめます。
よく玄関前のトランクベンチに腰を据えて、靴を眺めながらコーヒーを飲んだり、雑誌を読んだりしています。
靴を保管する場所でありながら、自分にとって玄関は趣味部屋のような空間。
毎朝、そして家に帰ってきてから元気をもらえる、とても好きな場所です。
「今日はこの靴を履きたい」から始まるファッション

■足元やファッションでこだわっていることはありますか?
ファッションの原点も、やはり靴です。
もともとは決してファッションに詳しい方ではなく、
RED WINGだけが好きだった頃は、桃太郎ジーンズのセットアップにRED WINGというスタイルをよくしていました。
そこからいろいろな靴に出会い、今では「今日はこの靴を履きたい」と、
まず一足を決めてから服装を考えることが多くなりました。
RED WINGのような無骨なブーツも、日本製の美しいドレスシューズも好きなので、
一つのスタイルに限定するのではなく、その日の靴を主役に全体のバランスを考えることを楽しんでいます。
そして靴磨きをするようになってからは、
「何を履くか」と同じくらい、「どのような状態で履くか」もファッションの一部だと考えるようになりました。
高価な靴でなくても、きちんと手入れされた靴には、その人らしさが表れると思います。
だからこそ、足元を大切にしたいと思っています。
これから育てていきたい、シェルコードバン
■今後挑戦してみたい靴やアイテムを教えてください
私はホーウィン社のクロムエクセルが大好きなのですが、実はまだシェルコードバンの靴を所有したことがありません。
コードバン特有の質感や光沢、履き込んだ先にどのような表情になっていくのか、とても興味があります。
また、ナチュラルカラーの革靴に触れる機会もまだ少ないので、自分自身で新品の状態から履き込み、
ケアによってどのように表情が変化していくのかを学んでみたいと思っています。
ちょうど年末には、Arch Kerryさんのナチュラルカラーのシェルコードバンを使用した一足が届く予定です。
新品の状態から自分の手でケアし、何年もかけてどのような一足に育っていくのか。
今からとても楽しみにしています。
おわりに
「足元にあかりを。」
安森さんが「燈-LUMIN-」に掲げるこの言葉には、単に靴を美しく磨くことだけではない想いが込められています。
本業のリハビリテーションでは、その方が自分らしい生活を続けられるように。
靴磨きでは、大切な靴をもう一度履きたいと思えるように。
仕事の形は違っていても、その根底にあるのは、目の前の人が「次の一歩」を踏み出すためのお手伝いをすることでした。
そして、靴を新品の状態へ戻すのではなく、傷や履きジワ、色の変化もその人と靴が歩んできた時間として大切にする。
そんな一足一足への向き合い方にも、安森さんの人柄が表れているように感じます。
2026年3月に始まったばかりの「燈-LUMIN-」。
これから山陰の地でさまざまな人や靴と出会いながら、その名の通り、
多くの方の足元を照らす存在になっていくのではないでしょうか。
今回のインタビューは以上です。
次回のインタビューもお楽しみに。
活動情報
靴磨き職人 燈-LUMIN-(ルミン)
コンセプト
「足元にあかりを。」
活動地域
鳥取・島根を中心とした山陰地方
Instagram
@yykchi_ak
お問い合わせ
Instagram DM またはメール(lumin.shoeshine.15@gmail.com)
店舗について
現在、常設店舗は設けておりません。
山陰を中心に、出張靴磨き・イベント出店・お預かりでの靴磨きを行っています。












