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Meister interview vol.13 後編 〜 studio.CBR 中川崇司さん 〜

革靴、皮革製品や靴磨きなど、足元のお仕事に携わっている方はもちろん、
ファッションや皮革に精通しているプロフェッショナルな方々を、
M.MOWBRAY シューケアマイスターがインタビューし、ご紹介する企画です。

前回の記事に引き続き、
国内外問わず様々な高級靴の買取・販売を行っているという、
代官山のお店、studio.CBRの中川崇司さんのインタビューをお送りいたします。

前編では現在のお仕事を始めることになった経緯や、
買い付けに行った海外での印象深い出来事などのお話を聞くことができました。

後編となる今回は、様々な靴を目にしてきた中川さんが今一押しする靴や、
革靴には欠かせないメンテナンスに関するお話をご紹介します。

(前編の記事は こちら からご覧いただけます。)


Q(マイスター 以下:マ). 仕事柄さまざまな靴を目にしてきたと思うのですが、中川さんご自身は現在何足ほど、どんな靴をお持ちでしょうか?

革靴が4足、スニーカーが4足、エスパドリーユが4足。
それ以外はほぼ 履いていないです。

革靴はクロケット&ジョーンズ、スニーカーはコンバース、エスパドリーユはガイモです。

マイスター

気に入っているもののみに特化、厳選された顔ぶれですね。

革靴、スニーカー、エスパドリーユ。
それぞれのジャンル内は同じブランドで統一しているのもすこし珍しいなと感じました。

中川さん

こだわりと言いますか、身に着けるものは、
気に入ったものを色違いか型違いで揃えるようにしています。

ニットなり、シャツなり、パンツなり、
モノ毎にブランドを固定するようにしていて、
それぞれ4~5枚づつ用意しています。

服も靴も、いろいろ買っちゃうと買い直しが面倒ですし、
バランスの合う、合わないが出てきてしまうので。

マイスター

靴だけでなく、服でも固定のアイテムを揃えているんですね。

毎日同じお気に入りを身につけることができるというのは、
違うものから選ぶのとは異なる愉しみがありそうです。

買い取りや販売など、これだけ魅力的な靴に囲まれてお仕事をしていると、
思わず新しい靴が欲しくなってしまうような気分になりそうですが、
中川さんが現在手に入れたい一足などはあるのでしょうか?

中川さん

Tricker’sのカントリーブーツを買いたい気持ちは強くあります。

その昔、学生バイトで販売をしていたとき、
女性の上司がギャルソンのパンツにカントリーブーツを合わせて
店頭に立っていたのがすごくカッコよくて。

それを真似したくて、20代前半の頃に履いていました。

ただ、当時はだいぶ雑な使い方をしていて、処分をしてしまいました。
履いたままノリで海に入っちゃったりしていたので。

もう少し丁寧に使っていれば良かったなと反省しています。

マイスター

ギャルソンにカントリーブーツ。
一見同じワードローブには揃わなそうな2ブランドですが、
街中ですれ違ったら思わず振り返ってしまいそうな、素敵な組み合わせですね。

カントリーブーツで海に入るという、
現在の中川さんでは想像もつかないような、
ワイルドな履き方にも驚きです(笑)

中川さん

カントリーはレディースも凄く良いんですよね。
Church‘s バーウッドのレディースも含めて一押しです。

同じモデル名の物でも、メンズとレディースの物だと大きく印象が変わります。
自分の子供の服を見ていても思う事なのですが、
なんでこう、小さくなるだけで、こんなにも可愛く見えるのでしょうか。

不思議です。

手前)Church‘s バーウッド
奥)Tricker’s カントリー

紳士靴だけでなく、レディースの本格革靴の品揃えも豊富。

店舗に並ぶ靴はプロの手によって一足ずつ丁寧に磨きあげられ、
どの靴を選んでも、いつでも履きおろすことができるような状態に保たれているのも魅力のひとつ。

マイスター

確かに、レディースモデルには独特の魅力がありますよね。
おさまりが良いというか、締まっているというか。

個人的に、ミニチュアになったスニーカーの
立体キーホルダーなんかも好みです。

靴以外の革製品でも、
思い入れあるアイテムなどはありますか?

中川さん

ビル・アンバーグのブリーフケースは、お気に入りで結構長く使っています。

20代前半の頃、某イタリアブランドのバッグを買いに行った際に、
近くにポンとこのバッグが置かれていて。

そのときは知らないブランドだったものの、
なんかかっこいいデザインだなと思い、勢いで買いました。

当時は、

「スーツを着たくないからアパレル業界にいるのに、なんでスーツ着なきゃいけないんだ」

という程度のモチベーションで、
仕事に着るスーツとこのバッグを手に入れた記憶ですが、
いざ使ってみると、デザイン、素材感、色使い、
それぞれ総合的にみて良い塩梅でして。
なんだかんだ、ずっと使っています。

むしろ、今となってはもう見かけないバッグなので、
傷んだとき用にもう一つ予備で買っておけば良かったなと後悔しているくらいです。

マイスター

しっくりくるカバンって、一度出会うとずっと使い込んでしまいますよね。
革であれば、特に柔らかくなって更に使いやすくなりますし、
さらに手放せなくなるイメージがあります。

中川さんが実際に使用しているビル・アンバーグのブリーフケース

シンプルなデザインに、上質なレザー。
長年使い込まれたことによる経年変化が合わさることで、魅力的な佇まいに。
デニムやワークパンツなどでも知られるリベットによるアクセントも秀逸。

Q(マ).  ご自身で物を大切にするために、心がけている習慣などはありますか?

中川さん

物を大切に、長く使いたいという意識はそこまで強く持っていませんが、
ただ、職業柄、なるべく“価値”がある物を買って、
壊さないように使う程度の意識はしています。

消耗品以外の買い物に関しては、

“価値”がある物を買ってさえしていれば、“捨てる”という選択でなく、“売る”

という選択が出来るので。

世の中に求められている物を選ぶことが、
ゴミを減らすことに繋がり、
結果的に物を大切にすることにも繋がるのかなとは思っています。

マイスター

おっしゃっていただいた通り、
丈夫に作られている革靴は使って、直してを繰り返して、
studio.CBRさんのような買い取りのサービスがあるお店に託すこともできるというのが、
とても大きな魅力のひとつですよね。

我々もお客様にお伝えしているように、
革靴を履く上ではお手入れも欠かせない要素のひとつだと思うのですが、
中川さんご自身はその部分でなにかこだわりはありますか?

中川さん

さんざんシューケア用品は買いましたが、結局さらっと磨けて、
それなりに綺麗になるケア用品が、自分にとっては一番かなと思っています。

店頭に並ぶ、お客様の手元に渡る靴を磨くのには一生懸命になれますが、
自分の靴にはできるだけ時間をかけたくないのが正直なところです。

マイスター

医者の不養生というか、自身の靴にできるだけ時間をかけたくないというのは、
私も非常に頷いてしまうところがあります(笑)

さまざまなケア用品を使用する中で、
中川さんが気に入っているアイテムなどがあれば、ぜひ知りたいです。

中川さん

M.MOWBRAY プレステージ トラディッショナルワックスは、
気に入ってずっと使っています。

この製品はどこの製品よりも楽に光ってくれるな、といった印象です。
初めて鏡面磨きをしてみたいという方には、
一番扱いやすい商品なのではないでしょうか。

マイスター

トラディショナルワックスは、
我々も作業で日々多様することの多いアイテムのひとつです。

硬くなく、柔らかく伸びが良いので、
中川さんが仰る通り初心者の方でも使いやすい仕様ですね。

Q(マイスター 以下:マ). 買い取り、販売など様々な靴と接する中で、特に印象深い一足などがあれば教えて下さい。

中川さん

僕と同年代くらいのお客様だったでしょうか。
その方が買い取りで持ってこられた靴が一番印象に残っています。

REGALのイーストコーストコレクションという、
年代物の割に、現行で販売してもそん色ない程、
今のスタイルにマッチするシリーズの靴でした。

マイスター

イーストコレクションといえば、
現在は製造されていないREGALのハイエンドライン。

時折我々の工房にもお持ち込みいただくこともありますが、
どの靴も思わず眺めたくなるような魅力が詰まっていますよね。

中川さん

お持ち込みいただいた靴は、10万も20万もするものではないですが、
なんでしょう、センスを感じたというか。
直感的に、“あっ、良い感じの靴だな” と 。

しかも、すべての靴にシューツリーが入れられていて、
意識の高さを感じる保管状態でした 。

そして、いつも通りに査定をして、
「年代物の靴だと思いますが、丁寧に使われてますね」

なんていう話をしながら査定金額をお伝えしたのですが、
いつもと雰囲気が違う気がしたので、気になって話を聞いてみると、
どうもそれらの靴は、以前お父様の使われていたものらしく。

「きちんと扱ってもらえそうなお店を」

とのことでうちの店を選んで頂けたようでした。

マイスター

我々の工房に靴をお預けいただくときもそうですが、
「良い仕事をしている」ということがお客様へきちんと伝わり、
信頼していただいた結果、数あるお店から自店舗を選んで頂けた。

こういう瞬間はとても嬉しいですよね。

中川さん

ちなみに、その後SNSでこの時お買い取りさせて頂いたものを掲載したのですが、
リポストがあったという表示が出たので、
どなたかな?と思い見てみると、そのお客様でして。

「丁寧に扱ってもらえて、すごくうれしい。親父も喜んでいると思う」

という感じの投稿を頂いていて、
ああ、自分の仕事は誰かに喜んで頂けているな、
と再確認ができたような気がしました。

マイスター

世代を超えて受け継ぐことのできる革靴と、
SNSという若いツールと、2つが絡む素敵なお話ですね。

買い取り後は一足一足をプロが丁寧に磨き上げるというstudio.CBRさんのサービスは、
購入する方はもちろん、
「靴を手放し、預けたい」というお客様も安心できる側面がありますね。

中川さん

ただ、もちろんの事、いつもこのようになるわけではありません。
この買い取りという仕事は、販売とは少し性質が違います。

どれだけプロ意識をもって、最高の仕事が出来たと思えるような査定をしたとしても、
すべてのお客様に満足を頂くことは正直難しいです。

お客様の相場感とのズレが大きすぎると、
残念に思わせてしまうことは避けられません。

たまに、

“自分の仕事は、はたしてお客様に価値を与える事は出来ているのだろうか”

と不安に思ってしまうようなときは、このときの靴のことを思い出します。

マイスター

つい販売の部分に目線が向きがちでしたが、
自身の一足を預け、託すという買い取りの部分にも、
さまざまなドラマがあるんですね。

誰かの大切な一足が、新たな誰かの大切な一足になるというのは、
長く履くことのできる革靴を、studio.CBRさんのようなお店が、
適切な状態に保っているからこそという印象も受けました。

今回はお忙しい中、たくさんの貴重なお話をありがとうございました。


インタビュー内容はここまでとなります。

二部に渡り、お仕事から足元やファッションに対するこだわりや考え方など、
非常にボリュームのある内容をお届けすることができました。
ご協力くださった中川さん、本当にありがとうございました。

今回の記事でstudio.CBRさんに足を運び、靴を見てみたくなったという方は、
下記より店舗に関するさまざまな情報をご覧いただくことができます。

Instagramでは、入荷情報や綺麗な靴の画像に加え、
それぞれの一足にまつわるモデル名の由来、豆知識や、
スタッフの皆さんのほっこりとする瞬間も覗くことができます。

インポートの靴に加え、良質な国産既成靴、ビスポーク製品など、
通常のショップには置いていないような商品まで取り扱いをしているそうですので、
これから革靴にのめり込みたいという方はもちろん、
革靴が好きでたまらないという方もぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。

次回のインタビューもお楽しみに。

studio.CBR

〒150-0034東京都渋谷区代官山町3-7-2F
平日 13:00~18:00|土日祝 11:00~18:00(不定休)
※来店は予約制となっておりますので、詳細はHPをご確認ください。

TEL:03-6379-4850

・HP:https://studiocbr.net/
・Instagram:@studio.CBR


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