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【失敗しないブーツカスタムとは?】第三回:『文化を履く』カスタム

 

第二回から長すぎるインターバルを経て、いよいよブーツカスタム論の最終回。

前回、

「使用シーンに合わせて必要なスペックを考えましょう」

というお話をしましたが、今日は機能性から少し離れて

ファッションとして楽しむブーツスタイルの紹介をしたいと思います。

とは言えファッションは千差万別。

今日は一例としてクラシックスタイルをモチーフにしたカスタムを紹介します。

 

ではまずクラシックスタイルなブーツとは何ぞや?ということから触れていきます。

 

そもそもブーツとは足首以上の範囲を覆う筒ものの靴を指します。

今のような形になったのは19世紀中頃を過ぎてから。

それ以前の紳士靴と言えば、ノーズが長く尖ったスリッポンまたは2アイレットほどの履き口の浅いタイプ。それも革を高く積み上げたミドルヒールで、今で言うならばパンプスのような形が多かったのです。

引き合いに出すにはちょっと設定年代が古すぎますけど、パイレーツオブカリビアンをイメージしてもらえるといいかもしれません。

荒くれ者たちは膝丈のブーツ、上流階級はミドルヒールのパンプス。

このようなスタイルが多かったのです。

 

しかし1850年代頃からゴツい膝丈ブーツは短くなっていき、尖ったパンプスは丸みを帯びながら履き口が狭くなっていきます。

つまり、それぞれのスタイルが少しずつ中庸なバランスへと変わっていき、1900年頃には今の紳士靴の原型の形となるのです。

内羽根やボタン留めのブーツが主流となり、筒のハイトはちょうどスネかそれより少し下くらいの丈感になっていきました。

今でも通用するデザインですが、明確に違うのは

靴の横幅が極端に細いこととヒールが高いこと。

当時は馬での移動も多かったため高いヒールは実用のデザインでした。

さらに未舗装路で泥や汚物を避ける為という説もあります。

 

ひょっとしたら貴族のパンプスの意匠を受け継いだとも考えられます。

ヒールの高さは古くから権威の象徴。

フランスの太陽王・ルイ14世をはじめ、己を誇示したいという男たちの思惑は世の常。

むしろ現代以上にそのこだわりは強かったでしょう。

その名残りが一般層へ取り入れられていったかのもしれません。

 

さらに工場化によるマシンメイドに移行する前で、工房スタイルが主流。

19世紀~20世紀初頭の靴をみると、釣り込みやダシ縫いもやたら手が込んでいるのもうなずけます。

そこからさらに100年かけ現代の姿になっていったのです。

 

現代では一般的な紳士靴のヒール高は2〜3㎝程度(もちろんもっと高いヒールもありますが)

騎乗を想定することはなくなり

歩行に適した高さに落ち着きました。

 

加えて機械縫いがしやすいようにコバのはりだしも広くなっていきました。

製造工程の機械化はソールまわりだけでなく木型や、つり込みも同様です。

量産化のためには当然ですが、一部の手製靴を除き絞りの効いた靴は昔に比べ限定的な存在となりました。

 

こんな風に言うと、

「昔は手仕事で作りこまれていた。今は量産になって大雑把になってしまったんだ。」

 

なんて思う方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、もし靴作りが昔のままだったら革靴の値段は今よりずっと高価で、

一部の富裕層のためのものになっていたでしょう。

一週間分のローテーションなど夢のまた夢。

おさがりで譲ってもらったサイズの合わない一足を、年がら年中擦り切れるまで履き込むはめになってたかもしれません。(というか19世紀まで平民はそんな感じだったらしいです)

盲目的な手仕事信仰があふれている世の中ですが、先人の叡智がつまったオートメーションへの感謝を

忘れてはいけません。

 

もちろん機械化が進んだからといって、スイッチひとつで全自動生産されてるわけではありません。

むしろ機械は素材の個体差や仕上がりのニュアンスを汲み取ってくれるわけではありませんので、微妙に条件の異なる環境下でも均一な製造ロットを回していくには熟練者による操作が不可欠です。

さらに気温や湿度、機械の癖(ピンとこないかもしれませんが、機械にはそれぞれ癖があります。全く同じ型番でも同じように動作しなかったりします。)なんかを加味しマシンを操作していくのです。

機械はあくまでも職工を補助し生産量を増やすブースター的役割とも言えるでしょう。

そもそも機械を揃えることも、それを維持することも結構大変なんです。

 

事実、昔は機械製造ということを大々的にアピールし

「ウチは靴作りの最先端マシンを導入する力がある工場だぜ!」なんて売り文句を出していました

時代が変われば価値観も変わるもんですね~。

 

ちょいと脱線しましたが、

つまるところ簡単に言えば

「昔はヒールが高かった」

「昔はコバの張り出しが狭かった」

 

ということです。

 

それらは現代では大きな機能をもちません。

むしろヒールを高くすると前重心になり、ひとによっては歩く際疲れやすくなる場合もあります。

さらにコバ幅を絞りこめば、

アッパーを守るバンパーとしての役割が乏しくなるだけでなく

将来オールソールをするときに金銭的な負担が大きくなります。(コバ幅を戻し縫い代を作る「リウェルト」という工程が必要になります)

 

それでも在りし日の美しい佇まいに憧れ、その当時に想いを馳せることで

とても心がワクワクしてくるのもまた人間の性。

「ヒールを高く」・「コバを絞り込んで」カスタムしたのがこちら。

便利で快適なだけが人生ではない。

心躍るロマンが足元にある。

 

 

これは体験した方には共感してもらえるでしょうけど、なかなかに素敵な気分ですよ。

公園のベンチや喫茶店のテラスに座った時、ふと視線を向ければえも言われぬ雰囲気を放つブーツ。。。

 

我ながら見蕩れてニヤニヤしてしまいます。

このニヤニヤのためのカスタムこそ、「文化を履く」ということなのです。(いささか大袈裟な物言いですが笑)

 

どんなカスタムにするかはその人のこだわりしだい。

機能性を求めるカスタムと違って、そこに正解はありません。

今回はクラシックスタイルをモチーフにカスタムした例を紹介しましたが、

スチームパンクテイストやら

エスニックテイストやら

きっと様々な着想ネタが世の中にはあるでしょう。

 

おのおののフェティッシュな想いをありったけ詰め込んで

ブーツカスタムライフを楽しんでください。

 

 

以上、失敗しないブーツカスタム講座でした。

 


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